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鳥取地方裁判所米子支部 昭和50年(ワ)65号 判決 1977年1月18日

原告

黒見喬

ほか一名

被告

東光産業有限会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告黒見喬に対し、金三〇、八四四、二三四円および内金二九、一四四、二三四円に対する昭和四九年五月一日から、原告黒見豊子に対し金九三五、〇〇〇円および内金八五〇、〇〇〇円に対する昭和四八年九月一日から、それぞれ支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一  原告らのその余の請求はいずれもこれを棄却する。

一  訴訟費用はこれを四分し、その三を被告らの、その余を原告らの各連帯負担とする。

一  この判決の第一項は、原告らにおいて、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立

(原告ら)

1  被告らは、連帯して、原告黒見喬に対し、金四〇、二五七、七七七円および内金三六、六五七、七七七円に対し昭和四九年五月一日から、原告黒見豊子に対し金一、一〇〇、〇〇〇円および内金一、〇〇〇、〇〇〇円に対し昭和四八年九月一日から、それぞれ支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

(被告ら)

1  原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二争いのない事実

―事故の発生―

とき 昭和四八年八月三一日午後八時五〇分ごろ

ところ 米子市河崎地内の通称産業道路上

事故車 普通乗用自動車(鳥五五そ四三六四号)

運転者 被告山川

受傷者 原告喬

態様 被告山川運転の事故車が原告喬の乗つていた足踏自転車に衝突し、同原告が転倒、負傷した。

第三争点

(原告らの主張)

一  責任原因

被告らは、各自、左記理由により、原告らに対し、後記損害を賠償すべき義務がある。

(一) 被告会社

根拠 自賠法三条

該当事実 被告会社は、事故車を保有し自己のために運行の用に供していた。

(二) 被告山川

根拠 民法七〇九条

該当事実 被告山川は、前方注視義務を尽さず、脇見をしながら事故車を時速七〇ないし八〇キロメートルの速度で運転していた過失により、本件事故を惹起した。

二  損害の発生

(一) 受傷

(1) 傷害の内容

頭蓋底骨折、脳挫傷、右半身麻痺

(2) 治療経過

(イ) 入院

自昭和四八年八月三一日―至同四九年一月五日

右一二八日間、高島病院へ入院

自昭和五〇年一月二〇日―至同年二月一三日

右二五日間、山陰労災病院へ入院。

(ロ) 通院

高島病院へ三回、山陰労災病院へ二二回通院。

(3) 後遺症

(イ) 頭部外傷後遺症に伴う耳鳴、難聴、平衡障害、言語障害。

(ロ) 右障害につき後遺障害等級三級三号の認定を受けた。

(二) 治療関係費 合計六二三、〇九五円

内訳

(1) 入院特別負担金(高島病院分) 一〇八、七九〇円

(2) 右同(山陰労災病院分) 七三〇円

(3) 入院雑費 七六、五〇〇円

一日につき五〇〇円の割合による前記入院期間一五三日分。

(4) 付添看護料 三六〇、三二五円

(5) 高島病院通院費 六、〇〇〇円

右病院へ三回通院した際のタクシー代。

(6) 山陰労災病院通院費 四五、七五〇円

右病院へ二二回通院した際のタクシー代。

(7) 通院付添費 二五、〇〇〇円

前記通院に際し原告豊子が付添つたことに対し支払わるべき費用。一回につき一、〇〇〇円の割合による二五回分。

(三) 逸失利益 合計三二、二一三、五四二円

原告喬は、本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。右算定の根拠は次のとおり。

(1) 職業

米子市所在の出原機工有限会社に勤務。

(2) 収入

(イ) 昭和四八年六月ないし八月(三ケ月)の平均給料月額六〇、〇〇〇円。

(ロ) その後の給料改訂に伴う給料および賞与

昭和四八年九月一日以降の給料月額一一〇、〇〇〇円

同四九年五月一日以降の給料 月額一二〇、〇〇〇円

同四八年一二月の賞与 一七二、〇〇〇円

同四九年八月の賞与 四五、〇〇〇円

同四九年五月一日以降の年収額一、六五七、〇〇〇円

(3) 休業期間

本件事故後引続き就労していない。

(4) 就労可能期間

本件事故当時三五歳(昭和一二年一一月一日生)。

その余命の範囲内で昭和四九年五月一日以降なお三二年間は就労可能。

(5) 労働能力、収入の低下、減少

前記後遺症のため労働能力を完全に失い、回復の見込みはない。

(6) 逸失利益額

(イ) 昭和四八年九月一日以降同四九年四月三〇日までの分一、〇五二、〇〇〇円。

内訳

給料分 一一〇、〇〇〇円×八=八八〇、〇〇〇円

賞与分 一七二、〇〇〇円

(ロ) 昭和四九年五月一日以降の分

三一、一六一、五四二円。

同日以降の前記就労可能期間中における労働能力喪失に伴う逸失利益の右同日における現価(ホフマン式算定法により年五分の割合による中間利息を控除。年毎年金現価率による。)。

一、六五七、〇〇〇円×一八・八〇六=三一、一六一、五四二円

(四) 慰謝料

原告喬 七、〇〇〇、〇〇〇円

原告豊字 一、〇〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 原告喬の前記傷害の部位、程度と治療の経過ならびに後遺症。

(2) 原告喬は、右後遺症のため、付添がなければ交通機関病院等の利用もできない。

(3) 原告豊子は、原告喬と昭和四八年三月一四日婚姻の届出をした夫婦であり、本件事故当時長女和佳子(昭和四九年一月一八日生)を妊娠中であつた。

(4) 原告豊子は、前記後遺症のため日常生活における身の廻りの処置も充分できない原告喬の看護付添に努めねばならず、今後、右状態が改善される見込みはない。

(五) 弁護士費用

原告喬 三、六〇〇、〇〇〇円

原告豊子 一〇〇、〇〇〇円

原告らが本訴代理人たる弁護士に支払うべき費用は右のとおりである。

三  損益相殺

原告喬は、自賠法による保険金三、一七八、八六〇円(内訳、傷害補償七八、八六〇円、後遺症補償三、一〇〇、〇〇〇円)を受領し、前記二の(二)ないし(四)の損害に充当した。

四  本訴請求

原告喬については以上の損害金合計四三、四三六、六三七円から前記保険金三、一七八、八六〇円を控除した残額四〇、二五七、七七七円および内金三六、六五七、七七七円(弁護士費用以外の損害金)に対する前記ホフマン式算定法による逸失利益の起算日たる昭和四九年五月一日から、原告豊子については前記損害金合計一、一〇〇、〇〇〇円および内金一、〇〇〇、〇〇〇円(慰謝料)に対する本件事故の翌日である昭和四八年九月一日から、それぞれ支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金。

(被告らの主張)

一  被告会社の無責

(一) 被告会社は、本件事故車の保有者ではなく、これを自己のための運行の用に供していたものではない。すなわち、本件事故当時、本件事故車を所有していたのは訴外椿武であり、同人は、本件事故当日、被告山川にこれを買つてくれといつて同被告の勤務先である被告会社のガソリンスタンドに置いて帰つたものである。そして、被告山川が勤務時間後にこれを運転して友人のところへ遊びに行く途中に本件事故が発生したものであつて、本件事故当時の運転は被告会社の営業とは何ら関係がなく、本件事故車を被告会社の用務に使用したことは一度もないのであるから、被告会社が本件事故につき責任を負うべきいわれはない。

(二) ただ、自賠責保険金請求の手続上、本件事故以前の昭和四八年八月二〇日に本件事故車が右椿から被告会社に譲渡されたことを証明する旨の書類が作成されていることは事実であるが、これは事故を起してしまつた以上、右椿に迷惑をかけることは忍びないという考慮から、事故後である同年九月八日、保険金請求の手続を被告会社の名で行うため、便宜そのような書類を作成したものにすぎず、事故前に被告会社が本件事故車の所有権を取得していたことを証するものではない。

(三) また、被告山川が、捜査係官に対し、本件事故車は被告会社の所有であり、三ケ月位前から運転していた旨の供述をしていることも事実であるが、これは被告山川が右供述をした昭和四八年一〇月二日の時点では、被告山川個人に資力がなかつたため被告会社が前記椿から事故車を買つたことにしており、同時点においては、一応被告会社の所有となつていたのでその意味で供述したものであり、また、三ケ月位前から運転していたと述べたのは、被告山川が右椿方までオイル交換のため事故車をとりに行つたりしたことがあつたのでそのことを述べたにすぎないものである。

(四) 更に、後に被告山川の無過失の項で述べるとおり、本件事故の発生に関し被告山川には何ら過失はないから、この点からしても、被告会社が本件事故につき責任を負うべき理由はない。

二  被告山川の無過失

本件事故は、原告喬が狭い道路から事故車の前に急に出てきたために発生した事故であり、事故車の進路である産業道路の方が明らかに広いのであるから、本件事故は原告喬の一方的過失によつて発生したものというべく、被告山川には過失はない。

すなわち、本件事故現場は、通称産業道路と呼ばれる広い直線道路であり、これを横断しようとしていた原告喬としても事故車が進行、接近しつつあることは充分判つていた筈である。しかも、近くには信号機のある横断歩道があるのに、原告喬はあえて事故車の直前を横断しようとしているのであり、無謀な横断というほかはない。本件の場合、道路広狭からみて事故車が優先することは明らかであり、被告山川にとつてこのような無謀な横断車があることまで予想して運転する義務はない。原告喬が右の如き無謀な横断をあえてしたのは飲酒していたからであり、このことは、本件事故発生時が原告喬の退社時刻から相当時間を経過した後のことであることや、本件事故当日の帰宅経路が通常のそれと違つていたことから、容易に推定されるところである。

第四証拠〔略〕

第五争点に対する判断

一  責任原因

被告らは、左記理由により、原告らに生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(一)  被告会社

根拠 自賠法三条

該当事実 左記のとおり

(1) 甲二〇号証によると、訴外共栄火災海上保険相互会社に宛てた訴外椿武および被告会社連名の自動車譲渡・貸与証明書には、事故車は昭和四八年八月二〇日に訴外椿から被告会社に譲渡された旨記載されていることが明らかであり、甲七号証(被告山川の警察官に対する供述調書)によれば被告山川は、昭和四八年一〇月二日の時点で、取調警察官に対し、本件事故当時運転していた自動車は被告会社の所有である旨供述していることが明らかであつて、かかる事実は、一応、事故車が本件事故当時被告会社の所有になつていたことを推認せしめるものであるというべきである。

(2) しかしながら、右譲渡・貸与証明書(甲二〇号証)作成の事情については証人椿武および被告会社代表者が、また前記被告山川が警察官に対し事故車は被告会社の所有であると陳述した趣旨については被告山川(第一回)が、それぞれ被告らの主張にそう供述をするところ、右各供述を全く虚偽のものとして排斥せしめるに足る資料はなく、むしろ、乙五号証の一、二および同一、二号証の如く右供述の裏づけとなり得る資料も存し、右証人椿や被告代表者および被告山川らのいうようなこともあり得ないではないと考えられることを考慮すると、甲二〇号証および同七号証によつて認められる前示の如き事実があるからといつて、そのことから直ちに、本件事故当時、被告会社が事故車を所有していたものとは断じ難いといわざるを得ない。

(3) しかしながら、甲七、八号証、証人椿武の証言、被告山川(第一、二回)の供述(いずれも後記措信しない部分を除く)によると、(イ)本件事故車は訴外椿武が同人の娘に与えるために昭和四八年四月ごろ購入した新車であるが、同女の気に入らなかつたため、同女はこれを使用しなかつたこと、(ロ)そこで、右椿は、同年六月ごろ、従前より自己所有車に使用するガソリンを購入していた被告会社の福市給油所において、同給油所に勤務している被告山川に事故車を買つてほしい旨の申し入れをしたこと、(ハ)右申し入れをうけた被告山川は、通勤に使うため買つてもよいと考え、同人の父である被告会社の代表者と相談する旨の返事をしていたこと、(ニ)そして、本件事故当日、被告山川は、訴外椿が被告会社の前記給油所に置いていつた事故車を運転し本件事故を惹起したこと、以上の事実が認められる。

(4) ところで、訴外椿が、本件事故当日、事故車を前記福市給油所に置いていつた事情に関し、被告山川は訴外椿が買つてほしいといつて置いていつた旨供述するのに対し、証人椿はオイル交換か何かで右給油所に立寄つた際、被告山川から、一、二日貸してほしいと頼まれたので置いてきた旨証言し、両者の供述に喰い違いがみられるが、売買の話自体はすでに六月ごろから出ていたことであり、本件事故当日に訴外椿が買つてほしいといつて事故車を置いていくようになつたことについて特段の事情があつたとも認められないことからすれば、この点に関する被告山川の供述はたやすく首肯し得ず、証人椿のいうように被告山川から貸してほしいといわれて置いていつたものと認めるのが相当である。

(5) 次に、本件事故当日までの事故車の利用状況についてみるに、証人椿は、それまで事故車を被告山川に貸したことはなく、オイル交換をした際、一度位被告山川が事故車を取りにきたことがあるにすぎないように証言するが、被告山川自身、本件事故後間もなく警察官に対し事故車は三ケ月位前から運転しており慣れていた旨供述しており(甲七号証)、当公判廷においても右供述の趣旨を説明して、事故車については同年五月から訴外椿方へオイル交換のため車を取りにいくというサービスを引続いてしておりオイル交換は三、四回した旨供述し(第一回)、少なくとも、本件事故当日までに事故車を数回運転したことを認めていることと対比すると、証人椿の右供述部分はたやすく措信できず、この点に関しては、むしろ、被告山川本人のいうように、被告山川は本件事故当日までに一度ならず事故車を運転していたものと認めるのが相当である。

ただ、被告山川が事故車を運転したのはいずれもオイル交換のためであつたかの如く供述する点はにわかに措信できない。何故なら、証人椿の証言によると、事故車は購入後訴外椿が一週間か一〇日に一度乗る以外はほとんど使用されておらず、本件事故当日までの走行距離は二~三〇〇〇キロメートル位にすぎなかつたというのであり、かかる使用状況の下で新車購入後四ケ月余りの間に三~四回もオイル交換を必要とするということは通常考えられないことだからである。

(6) 結局、以上を彼此勘案し事故車の利用状況を考えるに、被告山川は、被告会社の営業活動の一環としてオイル交換の際に事故車を運転したほか、被告会社の顧客である訴外椿から売買の話があり被告山川自身これを買取つてもよいと考えていたことから、自らの便宜のためにも必要に応じ事故車を借用、使用していたものであり、かつ、被告山川が従来からある軽トラツクに乗つて前記給油所に出勤していたことや(被告山川の供述―第二回―)、訴外椿がかなりひんぱんに右給油所に出入していたこと(証人椿の証言)に徴すると、事故車の貸与、返還に関しては、本件事故当日の如く右給油所で話がなされあるいは車の授受がなされるなど右給油所が利用されていたものと推認するのが相当である。

(7) しかして、被告山川の供述(第二回)によると、本件事故当時、被告会社が従業員を置いて営業をしていたのは右給油所だけであり、同所で働いていたのは、被告山川のほか、被告会社代表者の妻である同被告の母と男女従業員各一名計四名だけであり、被告会社代表者は一週間に一度位仕事振りを見にきていたというのであつて、被告会社は有限会社組織になつているもののその実体は被告会社代表者の家族による個人営業に近いものであつたということができ、その従業員たる被当山川の行動については、被告会社として容易に監督、指導し得る状況にあつたというべきである。

(8) そこで、以上認定の事実に照らし考えてみるに、被告山川自身には資力も乏しく支払能力も充分でないのに(被告山川―第一回―および被告会社代表者の各供述)、事故車を前示の如き状況で利用できるようになつたのは、訴外椿が被告会社の代表者を従前から知つていたことと(証人椿の証言)、被告山川が右代表者の息子であり、かつ、訴外椿のガソリン購入先である被告会社福市給油所の従業員として働いていた関係があつたからであつて、いわば被告会社の資力と信用があつたからこそであつたというべく、被告会社としても事故車が上記の如き状況で利用されているのに何らこれを禁止するような措置をとらなかつたのは、右事故車の利用が自己の顧客である訴外椿および従業員たる被告山川のためになるばかりでなく、被告会社の営業上も利益になりこそすれ、不利益になることは何ら存しなかつたからであり、被告会社としてはこれを黙認、許容していたものにほかならないというべきである。

すなわち、本件事故車の前示利用は被告会社の資力、信用を基礎にしてはじめて可能になつたものであり、被告会社においてこれを黙認、許容していたものである以上、被告会社としては、少なくとも事故車が前示の如き利用形態の中で被告山川によつて利用されているときは、これを事実上、支配、管理することができ、右自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあつたというべく、その限りにおいて事故車の運行供用者としての責任を免れないと解するのが相当である。

そして、本件事故当日の運転も右利用の範囲内の運転であるというべきであるから、被告会社は本件事故により原告らに生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二)  被告山川

根拠 民法七〇九条

該当事実 左記のとおり。

(1) 本件事故発生に関する状況は概略次のとおりである。

(イ) 本件事故現場は、前記地点をほぼ東西に走る車道幅員約一五メートル(片側各二車線、幅員各約七・五メートル)、アスフアルト舗装の平担な直線道路上であるが、事故現場の右道路の北側には北西方向へのびる幅員約二・六メートルの道路が、また、南側には南東方向へのびる幅員約三・七メートルの道路がある。

(ロ) 本件事故当時、現場付近の路面は乾燥し、自動車の進行を妨げる障害物はなく西行道路を進行してくる自動車運転者の視界を妨げる事情もなく、夜間ではあつたが水銀灯が点灯され現場付近は明るかつた。

(ハ) 本件事故直後、上記道路の西行中央寄りの車線上には、そのほぼ中央付近のところにおおむね直線状の約三〇メートルにわたる事故車のスリツプ痕が二条残されており被告山川が係警察官に指示した衝突地点は右スリツプ痕の東端よりその約三分の二位西へ寄つたところであつた。

(ニ) 原告喬が乗つていた足踏自転車の後輪ホークは本件事故のため折損、わん曲し、そのままでは使用不能となつた。

(ホ) 被告山川は、事故車を運転し、上記道路の西行中央寄り車線のほぼ真中あたりを時速七〇キロメートル位の速度で西進し、約一〇〇メートル前方を進行する先行車二台の方へ目をむけその車種のことなどを考えながら進行していたが、右先行車から目をはなし左前方を見たときはじめて前方約二八メートル位の地点に、足踏自転車に乗つて右道路を南側から北側へ横断しようとしている原告喬がまさに被告山川の進行車線に入ろうとしているのを認め、突嗟に危険を感じ、急制動の措置をとつたが間に合わず、原告喬の自転車の後輪に事故車の前部が衝突し、本件事故が発生した。

(資料、甲一、七、八号証、被告山川の供述―第一回―)

(2) 右認定の事実に照らすと、本件事故(衝突)は原告喬が被告山川の進行車線を横断し終ろうとする直前に発生したものというべく、被告山川において前方注視義務を尽しておれば、原告喬が横断しようとしているのをより早期に発見し、本件事故を回避することは充分可能であつたと推認されるので、被告山川の前方不注視による過失責任は免れない。

二  損害の発生

(一)  受傷

(1) 傷害の内容

原告ら主張のとおり。

(資料、甲三号証、同一〇号証の一ないし四)

(2) 治療経過

(イ) 入院

自昭和四八年八月三一日―至同年一二月二六日

右一一八日間、高島病院へ入院。

自昭和五〇年一月二〇日―至同年二月一三日

右期間中、山陰労災病院へ入院。但し、途中二、三日自宅へ帰つたことあり。

なお、右両病院へ実際に入院していた日数は合計一四〇日位と認めるのが相当。

(ロ) 通院

高島病院へ三回位。山陰労災病院への昭和五〇年三月一〇日までの間の通院回数は二〇回を下らない。

(資料、甲一〇号証の一ないし四、同一五号証の一ないし四三、原告豊子の供述―第一回―、弁論の全趣旨)

(3) 後遺症

(イ) 昭和四九年一一月七日の時点で症状固定。原告ら主張のとおりの後遺障害を残し、右後遺障害は自賠法施行令に定める後遺障害等級表の第三級に該当するものと認定されている。

(ロ) 右障害のため付添がなければ交通機関、病院等の利用も困難であり、記銘力は低下し、易亢奮性、怒り易い等の精神障害がある。

(資料、甲一〇号証の一ないし四、原告豊子の供述―第一、二回―)

(二)  治療関係費 合計六一四、三二〇円

内訳

(1) 高島病院入院費 一〇八、七九〇円

右病院入院中の部屋代、寝具代

(資料、甲一一号証の一、二、原告豊子の供述―第一回―)

(2) 山陰労災病院入院費 七三〇円

右病院入院中の電気代等。

(資料、甲一八号証の一、二、四、六、原告豊子の供述―第一回―)

(3) 入院雑費 七〇、〇〇〇円

一日平均五〇〇円の割合による前記入院期間一四〇日分。

(資料、(一)の(2)に同じ)

(4) 付添看護料 三六〇、〇五〇円

前記入院に対し付添看護婦を依頼し、これを支払つた費用(紹介手数料を含む)。

(資料、甲一二号証の一、九、同一三号証の一ないし七、同一四号証の一ないし三、原告豊子の供述―第一回―)

(5) 高島病院通院費 六、〇〇〇円

右病院へ三回通院した際の原告喬の実家と同病院間の往復タクシー代(原告喬は受傷後その実家に帰り、そこから通院した)。一往復二、〇〇〇円を下らぬものと認めるのが相当。

(資料、甲一五号証の一、原告豊子の供述―第一回―、弁論の全趣旨)

(6) 山陰労災病院通院費 四五、七五〇円

右病院へ通院した際のタクシー代。但し、原告両名間の子供(昭和四九年一月一八日生)を右通院に際し原告豊子の実家へ預けるため、同家に立寄つた際の原告喬の実家から同家までのタクシー代を含む。

(資料、甲一五号証の二ないし四三、同一七号証、原告豊子の供述―第一回―、弁論の全趣旨)

(7) 通院付添費 二三、〇〇〇円

前記通院に際し原告豊子が付添つたことに対し支払わるべき費用。一回につき一、〇〇〇円の割合による二三回分。

(資料、(一)の(2)に同じ。)

(三)  逸失利益 三〇、四一二、八五〇円

原告喬は、本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。右算定の根拠は次のとおり。

(1) 職業

原告ら主張のとおり。

(資料、証人佐古賢二、原告豊子―第一、二回―の各供述)

(2) 収入

(イ) 昭和四八年九月一日以降同四九年四月三〇日までの給料は月額平均七〇、〇〇〇円、昭和四八年一二月の賞与は右給与の一・五ケ月分を下らないものと認めるのが相当。

(ロ) 昭和四九年五月一日以降の収入は、後記就労可能期間を通じて平均した場合、賞与を含め年額一、六五〇、〇〇〇円を下らぬものと認めるのが相当。

(資料、甲一六号証、同二一、二三号証、乙九号証のほか、右(1)に同じ)

(3) 休業期間

原告ら主張のとおり。

(資料、右(1)に同じ)

(4) 就労可能期間

昭和四九年五月一日以降三〇年間は就労可能と認めるのが相当。

(資料、甲一七号証、弁論の全趣旨)

(5) 労働能力、収入の低下、減少

社会的には労働能力を完全に失い、自から収入を得ることは不可能になつたと認めるのが相当。

(資料、(一)の(3)に同じ)

(6) 逸失利益額

(イ) 昭和四八年九月一日以降同四九年四月三〇日までの分六六五、〇〇〇円

内訳

給料分 七〇、〇〇〇円×八=五六〇、〇〇〇円

賞与分 七〇、〇〇〇円×一・五=一〇五、〇〇〇円

(ロ) 昭和四九年五月一日以降分

二九、七四七、八五〇円

同日以降の前記就労可能期間中における労働能力喪失に伴う逸失利益の右同日における現価(ホフマン式算定法により年五分の割合による中間利息を控除。年毎年金現価率による。)。

一、六五〇、〇〇〇円×一八・〇二九=二九、七四七、八五〇円

(四) 慰謝料

原告喬 七、〇〇〇、〇〇〇円

原告豊子 一、〇〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1)  原告喬の前記傷害の部位、程度と治療の経過ならびに後遺症。

(2)  その他原告らの主張二の(四)の(3)、(4)のとおりの事実。

(資料、甲一七号証のほか(一)の(1)、(3)に同じ)

(五) 弁護士費用

原告喬 二、〇〇〇、〇〇〇円

原告豊子 一〇〇、〇〇〇円

原告らが本訴代理人たる弁護士に支払うべき費用のうち、本件事故による損害として賠償を求め得べきものは右の程度と認めるのが相当。

(資料、原告豊子の併述―第一回―、弁論の全趣旨)

三  過失相殺

前示現場の状況に照らすと、原告喬としても事故車が進行、接近してきていること自体は充分認識し得た筈であり、上記道路がいわゆる産業道路であり、高速で進行してくる自動車の多い道路であることからすれば、原告喬としても事故車との距離その進行速度等を慎重に判断して行動することが望まれるというべきであり、そうすることによつて原告喬において本件事故を回避する余地も充分あつたと推認されるので、原告喬にも過失のあつたことは否定できないというべきである。

しかし、本件事故は原告喬が被告山川の進行車線を横断し終ろうとする直前に発生したものであり、被告山川としては自動車運転者にとつて最も基本的な注意義務である一般的前方注視義務を尽してさえおれば容易により早期に原告喬の存在に気付き本件事故を回避することができたと推認されるのでその過失は決して軽くはなく、その他事故車は法定最高速度を上廻る速度で進行していたこと等の事情を考慮すると、過失相殺としては、原告らの前記損害の一割五分を減ずるのが相当である。

(資料、前記一の(二)に同じ)

なお、被告らは原告喬が飲酒のうえ事故車の前に急に出てきたように主張するが、かかる事実を認めるに足る証拠はない。

四  損益相殺

原告喬が受領した自賠法による保険金はその自認額三、一七八、八六〇円(内訳、傷害補償七八、八六〇円、後遺症補償三、一〇〇、〇〇〇円)を下らず、右は前示二の(二)ないし(四)の損害に充当されたものと認めるのが相当。

(資料、原告豊子の供述―第一回―、弁論の全趣旨)

第六結論

被告らは、各自、原告喬に対し金三〇、八四四、二三四円(上記損害金合計四〇、〇二七、一七〇円を前示割合により過失相殺した額から前示保険金を控除した残額但し、円未満切捨)および内金二九、一四四、二三四円(弁護士費用以外の損害)に対する本件不法行為以後の日であり前示ホフマン式算定法による逸失利益の起算日たる昭和四九年五月一日から、原告豊子に対し金九三五、〇〇〇円(上記損害金合計一、一〇〇、〇〇〇円を前示割合により過失相殺した額)および内金八五〇、〇〇〇円(慰謝料)に対する本件不法行為の翌日である昭和四八年九月一日から、それぞれ支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用。

(裁判官 上野茂 妹尾圭策 平弘行)

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